吃音連載 最終回:父親になって思うこと

吃音と僕のこと

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30代で結婚して、ありがたいことに子どもにも恵まれました。
すくすく育って、4歳か5歳くらいの頃だったと思います。

ある時期から、子どもが急に、めちゃめちゃどもりだしたんです。

正直、内心ヒヤッとしました。

遺伝したかもしれない、という不安

吃音は遺伝するのではないか。
これはあくまで僕の持論ですが、そう思っています。

というのも、僕の父親にもその傾向があるからです。

父は、かしこまった場面や緊張する席で、少しどもります。
僕の結婚式でスピーチをしてくれたときも、吃音気味でした。

ただ、大人ですし、人生経験もあります。
「喋るのが少し苦手な人が、たどたどしく話している」
その程度の印象に収まっていたと思います。

一方、息子は違いました。
あれはもう、はっきり分かるレベルでどもっていた。

「これは遺伝したかもしれない」
そう思って、申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。

妻の意外な反応

妻にも相談しました。

「実は自分にも吃音の症状があって、
 それが息子に遺伝したかもしれない」

すると、返ってきた言葉は意外なものでした。

「え、そうなの?」

妻は、僕が吃音だということに今の今まで気づいていなかったようです。

自分では、普段でもどもっている自覚がありました。
でも、相手からすると、それほど気になるほどではなかったのかもしれません。

ここでひとつ、思ったことがあります。

自分が思うほど、他人は気にしていない。

だからこそ、気楽に、リラックスして話したほうがいいのだと思います。

息子のどもりと、僕たちの対応

話を戻します。

息子のどもりについては、妻も僕も同じ意見でした。

「どもってるね」
「これは治るのかな」

不安だったと思います。
でも、正直に言えば、不安の大きさは僕のほうが上でした。

自分がこれまでどんな思いをしてきたか、それを知っているからです。

その苦労を、息子に背負わせてしまったのではないか。
申し訳ない、という気持ちが強かった。

自分の経験を、子どもに使う

そこで、僕は自分の経験をそのまま使うことにしました。

息子がどもって話すとき、話し終わるまで、じっと待つ。

途中で言葉を遮らない。
焦らせない。
言い直させない。

これは、自分がされて一番イヤだったことだからです。

途中で口を挟まれると、余計に焦って、早口になって、ますますどもります。

だから、じっくり、辛抱強く。

吃音のことを指摘することもありませんでした。
「もっとゆっくり話してごらん」
「落ち着いて喋れば大丈夫」

そういうアドバイスも、あえてしませんでした。

ただ、目を見て聞く。
心の中で「ゆっくりでいいよ」「落ち着いて話していいよ」
そう思いながら。

そして、数か月後

症状に気づいてから、数か月。

息子は、どもらなくなりました。

11歳になった今では、僕よりよっぽど流暢に喋ります。
むしろ、まくしたててくるくらいです。

どこからどう見ても、吃音の症状は見当たりません。

この点については、心の底からホッとしています。

ただし、ひとつだけ。
これは あくまで僕たちのケース です。

これが正しい対処だったのかどうか、それは分かりません。

同じことをすれば必ず良くなる、そんなことは言えないと思っています。

今、思うこと

そんなこんなで、すっかりおじさんになりました。

今でも、たまに吃音は出ます。
でも、それをストレスに感じることは、ほとんどなくなりました。

吃音があっても、仕事もできた。
家庭も持てた。
人間関係も築けた。

この連載が、吃音で悩んでいる人や、その家族の方にとって、

「少し先の姿」
「こういう生き方もある」

そんな一例になれたら、うれしいです。

ここまで読んでくれて、ありがとうございました。

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