吃音連載 第4回|社会人・アルバイトで見えた「どもらない働き方」

吃音と僕のこと

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専門学校を卒業して、
「よし、社会人になりました」と、すんなり言えたわけではありません。

映画関係の仕事は、やっぱり狭き門でした。
いきなり映画監督になれるわけもなく、かといってADのような下働きをする気にもなれず。
脚本を書いたり、のらりくらりしたり。
今思えば、完全にフリーターです。

アルバイトはやっていました。

大声を出す仕事は、どもらない

専門学生のころは、デパ地下の鮮魚売り場で売り子をしていました。
「サンマ安いよー!」と大声を張り上げる仕事です。

前にも書きましたが、
大声を出すと、僕はどもりません。

買う人がいればビニールに入れて値札を貼る。
単純だけど、声を出す仕事は性に合っていました。

ただ、苦手な魚が一つありました。
それが「アジ」。

「ア、ア…」と最初の一音がなかなか出てこない。
しかもそれを自分で分かっているから、身構える。
すると余計につっかえる。

そんなときに使っていたのが、
「えー、アジ!」みたいに、言葉の前に助走をつける方法です。

テレビで政治家が
「あー、そのー」
と言うのと、あれと同じです。

リズムに乗れると、不思議とどもらない。
この頃から、吃音はリズムと緊張が大きいと感じるようになりました。

居酒屋ホールで学んだこと

そのあと、いろいろアルバイトをしましたが、
長く続いたのは居酒屋のホールでした。

最初はキッチン希望だったのですが、
「人が足りないから」とホールに回されてしまって。

正直、人と話す仕事は不安でした。
でも、修行だと思ってやることにしました。

結果的に、この仕事も
大声を出す仕事でした。

店内はガヤガヤうるさいので、
オーダーを取ったら大声でキッチンに通す。
「いらっしゃいませー!」も定期的に叫ぶ。

声を出すことで緊張がほぐれるのか、
吃音はあまり出ませんでした。

ただ、ここにも苦手な言葉はありました。
「春の〇〇」とか。
どうやら僕は「は行」、というか母音の「あ」が苦手らしい。

慣れてくると、魚屋で覚えた
言葉の助走で対処できるようになりましたが、
最初のころは緊張して、それすらできませんでした。

基本、人見知りなので。

笑顔は、吃音に効く

ある日、酔ったお客さんに言われました。

「お高く止まってんじゃないの?」

そんなつもりはまったくなかったのですが、
緊張して無口に見えたのだと思います。

それから意識的に、
笑顔で話すようにしました。

すると、吃音が減ったんです。

笑顔になることで体がリラックスするのかもしれません。
それ以来、バイト中だけでなく、
人と話すときはなるべく笑顔を意識しています。

これは、かなり効果がありました。

「聞く側」に回ると楽になる

居酒屋のホールは、
基本的に自分から話を始めません。

相手の要望を聞くところから始まる仕事です。

これも、僕には良かった。

「うまく話そう」「完璧に話そう」と思うと、体が緊張してどもる。
でも、相手の話をじっと聞いていると、
不思議とこちらの気持ちが落ち着いてくる。

ワンテンポ待つ。
焦って早口にならない。

これも、吃音には良い気がします。

正社員になって気づいたこと

しばらくして、正社員として働くようになりました。
いくつかの会社を経験して、はっきり分かったことがあります。

自信がないことを、完璧に話そうとすると、どもる。

だから、事前準備を徹底する。
必要がない場面では、無理に喋らない。

「沈黙は金、雄弁は銀」
これは本当にそうだと思います。

ただ、オフィス勤務で一番の壁は電話でした。

不意に鳴る電話。
誰も取らなければ、自分が取るしかない。

そんなときほど緊張してどもる。

でもある時、
自分から率先して取るほうが楽だと気づきました。

前のめりになると、言葉に勢いが出る。
結果、どもりにくい。

電話については、
最初の定型文を決めておくのも効果的でした。

「お電話ありがとうございます。〇〇です」
発音しやすい言葉を選んで、紙に書いて電話に貼る。

最悪、それを読み上げればいい。
そう思えるだけで、かなり安心できます。

得意なことでは、どもらない

仕事を点々とする中で、
自分の得意分野が見えてきました。

僕の場合は、
カメラマンの仕事やウェブ関係の仕事です。

カメラマンとして、
お客さんにポーズを指示したり、
話しかけながら撮影したりしますが、ほとんどどもりません。

知識と経験があること。
体を動かしながら話すこと。
ジェスチャーを交えて、少し大げさに話すこと。

これらが合わさると、
自然と堂々と話せるのだと思います。

社会に出て思うこと

今では、仕事で吃音が問題になることはほとんどありません。
会議で司会のような役割をすることもありますが、
事前準備をしていれば大丈夫です。

社会に出てから、
吃音をからかわれたことは一度もありません。

もちろん、不意にひどくどもることはあります。
でも、大人はそれをいじらない。

そして、気づけば
吃音気味の大人は、たくさんいます。

そういう人を見ると、
僕は自然と、じっと話を聞く側になります。

がんばれ、と思いながら。

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